インタビュー企画【1】滋慶教育科学研究所 職業人教育研究センター センター長 志田秀史氏「理論と実務をつなげる橋渡しを」

プロジェクトメンバー

滋慶学園グループ(一財)滋慶教育科学研究所

職業人教育研究センター 

センター長 博士(公共政策学)

志田 秀史 氏

(しだ・ひでふみ)滋慶学園教育改革センターセンター長、滋慶学園グループ(一財)滋慶教育科学研究所研究委員および運営委員​​、九州大学大学院人間環境学研究院准教授を歴任し、2018年より現職。
専門は教育社会学、キャリア・職業教育、若年者福祉。学校法人敬心学園職業教育研究開発センター特別研究員。日本キャリア教育学会、留学生教育学会、九州教育社会学会、日本ESD学会、人材育成学会、日本リメディアル教育学会、滋慶教育科学学会、大学教育学会、日本高等教育学会、日本職業教育学会会員。専門学校研究を中心に、リカレント教育や外国人留学生の学業定着等に係る先進的な実践の理論化を進めている。

インタビュー:湊洵菜 東北大学教育学研究科修士課程
赤尾菜々実 東洋大学国際学部国際地域学科
文章作成:成毛楓 東洋大学国際学部国際地域学科
編集担当:石森慧 GCCPJ事務局

GCCPJプロジェクトのメンバーに学生インターンがインタビューをする本企画。

第1回は、滋慶教育科学研究所職業人教育研究センターのセンター長である志田秀史先生にお話を伺いました。実務経験を起点に、現場と密に通じながら専門学校研究等を推進する志田先生は、本プロジェクトで理論と実践をつなぐキーパーソンの1人です。社会人大学院での学びや、本プロジェクト参画の経緯などのパーソナルなお話から、戦略的な外国人受け入れに関する日本の実情や課題、その解決に向けた具体的な取り組みなど、研究を深掘りするお話まで盛りだくさんでお届けします。

現場の実務経験がリサーチ・クエスチョンに

湊:まず初めに志田先生が取り組まれている活動についてご説明いただいてもよろしいでしょうか。

志田:今現在は、学校法人滋慶学園というところで職業人教育研究センターを運営しています。2000年初頭に専門学校という学校種の教育の実態が見えないと指摘する研究者もいたため、この部署ができました。産学協同の取り組み等を発信する部署を設けようということが始まりです。専門学校研究を中心に論文化するなど、特に先進的な実践を理論化することを中心に活動しております。

湊:社会人大学院では何を学ばれていたのでしょうか。

志田:まず修士課程は大学経営専攻という専攻で、高等教育論と経営学を学んでいました。その後すぐ博士課程で公共政策専攻に入りました。まちづくり、福祉、教育、環境に関わるような政策を提案するような学際的研究の専攻です。

湊:なぜこのような分野に関心を持たれたのでしょうか。

志田:修士課程も博士課程もいずれも主に社会人が入る大学院なのですが、自分も他の仲間と同じように現場の実務経験がリサーチ・クエスチョンになったということです。年齢を重ねると、職場で相談をする相手が段々減る一方、後輩からは質問攻めにあうことで、外に出て人脈を作ることや、特に後輩からくる質問をリサーチ・クエスチョンにしてそれを研究しようという気持ちが高まったので、それで研究に興味を持ちました。

湊:博士課程での研究のテーマというのはどういったものなのでしょうか。

志田:専門学校教育がテーマになってはいますが、公共政策専攻的には労働経済と職業教育に渡る学際的な若者政策研究です。特に若者政策では就労問題が挙がっていたので取り上げました。

湊:技能実習生や外国人労働者は若者の就労に関する問題の一環として関心をもたれていたのですか。

志田:そうです。1番最初のリサーチ・クエスチョンは、専門学校生の中退予防だったのですが、その後専門学校における外国人留学生の中途退学研究や、外国における職業大学の中退予防施策、アメリカにおけるコミュニティ・カレッジ、韓国の専門大学の事例といった研究をしている中で九州大学の吉本圭一教授と出会いました。その後、若者の国際移動を促進する国家学位資格枠組み制度、その日本モデルを構築する研究プロジェクトが2013年に立ち上がって、翌年に専門学校教育に詳しい人材として誘っていただいて、芦沢真五教授(本プロジェクト代表)とも出会いました。

湊:吉本先生との出会いというお話が出てきたのですが、どのように出会われたのでしょうか。

志田:吉本教授の起案で、九州大学と滋慶学園で寄附講座を九州大学の大学院に開こうという話になったのが出会いのきっかけです。九州大学大学院人間環境学研究院教育学部門というところに、第三段階教育論講座という寄附講座を開きました。それを開いた時に私が専門学校の協会から推薦をもらって、専門学校教育研究に詳しい実務家出身の研究者という立場で参画しました。

理論と実務をつなげる橋渡しをしたい

赤尾:専門学校での理論が実務にどう結びついているのか教えていただきたいです。

志田:1番最初に研究した中途退学の予防施策は具体的にプログラムを作ることに繋がるので、現場の参考になっていると思います。また現在は、リカレント教育(循環教育)が注目されています。滋慶学園の卒業生25人にどんなリカレント教育が必要かインタビューしたのですが、彼らの言葉を質的調査として理論的にまとめられると現場で参考にしやすい。少しは役に立っていると思います。今後も先進的な取り組みを見つけては調査して理論化していこうという気持ちは継続して持っています。

赤尾:理論化していく中でも、実務に繋がるようにということを念頭において活動されていますか。

志田:そうですね。それは、現場出身者ということで意識しています。あとは、学者と現場を繋ぐのも役割だと考えています。吉本教授が「学術と職業の往還が大切だ」とおっしゃっていて、私も共感しています。その橋渡し役という意識があります。

湊:橋渡し役をしていて、難しさと課題を感じる部分はどこにありますか。

志田:最近は少なくなってきましたが、理論なんかより現場の工夫のほうが大切だという人も中にはいて、学びが足りないのではないかと感じることもありました。最近は産学共同プロジェクトが増えてきたので、距離があるという感じは減ってきました。

志田 秀史 氏

日本の就労制度と外国人労働者について

湊:ここから、研究の内容に関して少し踏み込んだ質問になります。日本に在住している・在住を希望している外国人は、現行の日本の就労制度に満足しているのか、どれほど期待に応えられているのか、志田先生の実感としてお聞きしたいです。

志田:介護の分野に限定すると、おおむねうまくいっていると思っています。受入当初から給料は日本人と同等以上ということを国が方向性を示していたので、低賃金で働かされるということはありませんでした。また、希望すれば5年ごとに更新が必要ですが、ずっと日本で更新して働けるので、いいのかなと。また、日本の就業規則もだいぶ働く側に配慮されています。ただ、他分野では望ましくない事例もあるので、分野や経営者の考え方に応じて大きな差が出ます。ただし、労働制限が細かくあるので、外国人は苦労されているのではないでしょうか。カナダは労働制限が無く、賃金もカナダ人と同じで、永住権が取りやすい。日本全体として、労働制限はもっと緩和できたらいいのではないでしょうか。

湊:日本に来たいという外国人の1番の願いはどこにあるのでしょうか。

志田:介護でいうと、在学中は日本で働いた後に自分の国に戻って貢献したいという人が多いですね。東南アジアからの留学生が増えており、高齢化が進んでいることをビジネスチャンスと捉えている大学生が多い。日本の介護は世界一だと言われていますね。

湊:自国で起業する事例はありますか。

志田:受け入れ始めてあまり年数が経っていないため、事例は少ないですが起業した例も聞いています。ただ、しっかり卒業生の追跡調査をしている学校がほとんどないのですね。たまたま起業の連絡がきたから知ったであるとか、学習成果を測れるようにしたほうがいいのですが、まだできていませんね。

湊:海外では追跡調査は一般的に行われていますが、追跡調査が少ないのは日本特有の問題なのでしょうか?

志田:以前文科省主催のシンポジウムで聞いた話では、ヨーロッパの国々は卒業生への調査を行っていて、日本で例えると国勢調査レベルで行われていることから、回答率も60~80%ほどあります。一方で、日本の卒業生調査は先進的な大学と一部の専門学校が行っている程度ではないかと思われます。それも独自の取り組みである可能性が高く、研究プロジェクトもわずかです(吉本2012「卒業生のキャリアと学校調査に関する調査プロジェクト、他)。